赤ちゃんからはじめられる性教育~そのからだ、だれのもの?~

赤ちゃんからの性教育

「赤ちゃんに性教育?!」

そう驚かれた方も多いのではないでしょうか?
それも無理はありません。

はじめまして、藤野早織です。
この度、日本タッチ育児協会の研修会にて包括的性教育のお話をすることになりました。

性教育と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは

「小学校高学年の頃に女の子だけが集められて、生理の話を聞いた記憶」

ではないでしょうか。

私は、小児科で10年、保育園で12年。
看護師としてお子さんや保護者のみなさんとたくさんの時間を過ごしてきました。

現在は、八王子市を拠点にフリーランスの看護師として性教育を届ける活動をしています。
性教育と出会い、私自身の心地よさに意識を向けることの大切さを実感しました。
子どもも大人も「自分っていいな」と感じられるような性教育を目指しています。

冒頭のお話に戻りますが、私たちの記憶に残る性教育とは何でしょうか?

小学校高学年の頃に、なんとなく男女でわかれて聞いたお話。
その記憶からか、小さいお子さんからの「なんで?」「どうして?」には「まだ早い」と戸惑い、
思春期に入ると「大切なことだから丁寧に伝えたい」と思いながらも、うまく届かず焦る…。

そんな経験をしてきた方も多いのではと思います。

けれど今、性教育は大きく変わりつつあります。

赤ちゃんからはじめられる性教育とは?

包括的性教育の視点から

いま世界で注目されているのは、「SRHR(性と生殖に関する健康と権利)」という考え方。

これは、すべての人が、自分の性やからだ、生き方において、心身ともに満たされ、
安心して“自分で選べる”ことを保障しようというものです。

つまり、「自分のからだのことを決めるのは自分」 だということ。

人生の主役は“わたし”。

そんな感覚を育てていくことが、性教育の土台になります。

その土台を育むためのアプローチが、「包括的性教育(CSE)」です。

知識を届けるだけで終わらない学び

ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス(以下、ガイダンスとする)」では、
性教育は一度きりの話ではなく、カリキュラムベースで体系的に学んでいくことが大切とされています。

示されている8つのキーコンセプトは以下のとおりです。

1.人間関係

2.価値観、人権、文化、セクシュアリティ

3.ジェンダーの理解

4.暴力と安全確保

5.健康とウェルビーイングのためのスキル

6.人間のからだと発達

7.セクシュアリティと性的行動

8.性と生殖に関する健康

私たち大人が思い描く性教育は、包括的性教育のほんの一部に過ぎなかったのだと気づかされます。

また、包括的性教育では、単に知識を届けるのではなく、「学習者が主体」であることを大切にしています。

正しい知識を土台に、自分で考え、感じ、行動できるようになること。
そのためには、安心できる関係性の中で、くり返し丁寧に学んでいくことが必要です。

「5歳から」より前に、大切にしたい時期

ガイダンスでは「5歳からの学び」が推奨されていますが、
それは、集団での学びができる発達段階になったということ。

私はむしろ、その前。

生まれてから5歳までの関わりこそが、その後の性教育の学びを豊かにするための、大切な土台づくりの時期

だと考えています。

この時期に大切にしたいのは、以下の2つです

1.「あなたのからだは、あなただけの大切なもの」というメッセージを受け取ること

2.「男らしさ」「女らしさ」にとらわれず、「自分は自分でいい」と感じられること


※『乳幼児期の性教育ハンドブック』
〝人間と性”教育研究協議会 乳幼児の性と性教育サークル 著を参考に記載しています。


この時期は、大人が何かを教えこむというよりも、
日々のふれあいの中から
「からだっていいな」「自分もみんなも大切」という感覚を育んでいく時期。

日々のふれあい、かける言葉、声のトーン、まなざし。
そうしたひとつひとつの関わりが、
「わたしのからだはわたしのもの」という感覚につながっていきます。

バウンダリー(境界線)を育てる

からだへの感覚を育てることは、自分と他者の間にある
“バウンダリー(境界線)”を知る力にもつながります。

「なんかイヤだな」 「うれしいな」
その感覚が、自分の“いいよ”と“いやだ”の出発点になります。

けれど、バウンダリーは目に見えません。

特に近しい人との関係では、その境界が曖昧になりがちです。

だからこそ、丁寧にふれられることで

“からだの地図”をつくるように、 自分の「いいよ」「いやだ」の感覚を育てていく。

それは、バウンダリーを大切にされた経験があってこそ、育つ力なのです。


この学びは、社会の課題ともつながっている

こうした感覚を育てることは、今、社会で起きているさまざまな問題

・性暴力

・デートDV

・トー横キッズ

・SNSでの誹謗中傷

などの根本にも関わっています。

「よかれと思って」「あなたのために」
そんな言葉の裏に、相手の気持ちや同意が置き去りにされていることもあります。

だからこそ、「ひと声かけて、丁寧に」関わること。
それが、今、子どもたちにも大人にも必要とされていると感じます。

考えてみたいこと

今回の研修会では、赤ちゃんとのふれあいの中で育まれる“からだ観”や“バウンダリー”を、
日常の中でどう育んでいけるかを、参加者のみなさんと一緒に考えていきます。

たとえば…

  • おむつ替えや抱っこのとき、どんな風に声をかける?
  • 子どもの「いやだ」に、どう寄り添う?
  • 成長して、直接からだにふれさせてもらう機会が減ったとき、どう関係性を育てる?

そんな「今日からできる一歩」を、ふれあいの中から一緒に見つけていきましょう。

赤ちゃんにふれさせてもらうときの、「ふれてもいい?」というひと声。

そのひと声から、“わたしのからだはわたしのもの”という感覚が、そっと育ちはじめるのです。

【研修講師実績】
青梅市保育園連合会 保育研究部会
山形市民間立保育・認定こども園協議会 看護師向け研修会
公立・私立保育園、幼稚園、児童養護施設、放課後等デイサービス等

【掲載】
一般社団法人 東京都民間保育協会 会報誌
とうきょう 民保協 第181号

看護師・思春期保健相談士(*保育現場の性教育を応援する人) 藤野早織


日本タッチ育児協会主催 講習会
「赤ちゃんからはじめられる性教育~そのからだは誰のもの?~」

2025年6月23日(月)9:30~11:00
講師:藤野早織さん
受講料:5,500円(税込)
※zoom開催/要予約
※アーカイブ(録画)受講可能

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